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AとB以外をつくればいいだけ――Aki Iwayaインタビュー(pt.2)


聞き手:川野太郎

都内某所のレジデンス/シェルターにて、2020年1月16日


プロジェクト:ライフバトン


◆自分が当事者として関わらないと解決できないことを、なんとかしようと思ったときに、質問を投げると出現するようなものとしていま、「コレクティブ」を捉えられると思いました。その点、いま計画中の、メンタルヘルスケアの仕組みを構想する「ライフバトン」というプロジェクトでは、活動の資金を募る、クラウドファンディングという形式も検討していますね。直に出会って対話するローカルな繋がりと言うよりは、ウェブ上にステートメントを出して……一見、不特定多数に語りかけるような形なのかなと思うのですが。

 

クラウドファンディングはけっこう、取り扱い注意な感じで。あの……〈VS? Collective〉の名前の由来は、VSっていう二項対立があって、それに「?」をつけたのは、AかBかじゃなくてもいいんじゃないかって。

 

◆はい、はい。

 

それ以外のを自分たちで作れればいいだけの話だから。で、基本的に自分は……自分もそうだし自分の周りとかコレクティブに関わっている人の多くは、あんまり日本に適応しきれてないと思っていて。理由は、ほかの選択肢を知っているからなんじゃないかと。海外経験があったりとか、複数のジャンルを知っていたりとか、あとは、正常と異常とかの境目に懐疑的な人が多いなと思って。

 

ライフバトンに関しては、それに加えて、けっこう個人的な経験も関係があって。まず、いままで自殺とか引きこもりとかに関わってきたけど、それはけっこう間接的な関わり方が多かったーーたとえば関係のあるドキュメンタリーを作るとか。寺子屋もやっていたけど、それもべつに二四時間三百六十五日関わっているわけではなかった。そういう気持ちがあって。

 

で、この社会では一応、自殺って悪いこととされているけど、はたしてそう言い切れるほどみんな自殺に関して知ってんのかなって。だって隠されているから。ちょっと飛躍あるけど、なんかそれって「死」がいけない、と言っているのに近い感覚がある。だってだれも死んだことないでしょ。だったらもうちょっとそれを、公に議論できるような、機会とか、装置があってもいいんじゃないかなと思った。日本で精神科に行くのはハードルが高いし、それに準ずるような「いのちの電話」もパンク寸前みたいな……。

 

◆なかなかつながりにくいっていいますよね。

 

よくいわれてるし。しかも内部のひともけっこう疲弊してるっていう話もある。それはかなり不健康だし、まだなんの議論も発生してないんじゃないか本当は、って。

 

それでいろいろ調べてたら、少なくとも英語圏にはそういうサービスもかなりたくさんあって、ある程度は選択肢として認知されているらしい。で、日本に関しては、自分が調べた限りは、ほぼ、ないと。理由はいくつもあるだろうけど。でも社会の流れとしては、たぶん自分たちがやらなかったとしても今後あらわれるだろうなとも思っています。なので、クラウドファンディングっていう方法を検討しているのは、その議論をちょっと喚起したいというか、社会に問いかけたい、みたいな意味もある。

 

リターンについても、やるならお金とかモノじゃなくて、「いっしょにやろうよ」っていうのをリターンにしようと思ってて。ふつうリターンってなにかを「あげる」だけど、そうじゃなくて、「一緒に企画と運営をやろうよ」みたいにしようかなと。お金についても、クラウドファンディングっていう形には、投票みたいな部分があるんじゃないかと思って。身銭を切って投票する人とそうじゃない人でけっこう差が出るんじゃないかと。

 

あとは、やるとしても、支持を集めるためだけにやるつもりはなくて。石を投げて、その波紋見たいからやってみたいところもあるから、賛否両方、めちゃくちゃ大歓迎。むしろちょっと挑発しようとか思ってる。「お前みたいのが無視してるからこういう惨禍になってんだよ」っておれ、本気で思ってるから、そういう感じで……でも、興味あるんだったらフォローすればいいじゃん、みたいな。なんかライブでアーティストがアジってるみたいな感じをイメージしてる。でもおれひとりでやると、たぶん怖い人になっちゃうから――太郎くんはよく知ってるかもしれない(笑)。なので、信頼できる、いわゆる説明が上手なタイプの人にも関わってもらって、バランスを見てもらおうと思ってる。

 

◆(笑)

 

けっこういろんな人にも話を聞きにいっているんだけど、あまり……反応は芳しくない。いちおう非営利組織でやろうと思ってるんだけど、「これは金儲けなのか」みたいな反応もあるし。「ほんとにできるのか」みたいな。でもそれは……だれもやってないからそう思うだけであって、もうそういうサービスが十個や二十個ある世界から見れば、べつにそんなのは疑問にもならないと思う。

 

◆うん。

 

で、自分のもうひとつの興味として、それを、いわゆる言葉とか音声のコミュニケーションで成立させようと思っている。そうして考えていくと、なんていうか、日本語の特性をあらためて捉え直すことになると思う。日本語ってけっこう、使い方難しいなって。その……あまり自分のことを主張するタイプの言語じゃないし。相手の言っていることにほんとに注意深く耳傾けないかぎり、たぶん相手は聞いてもらったというふうには思えないから。

 

さらにもうひとつ、じゃあそういうコミュニケーションが、たとえば精神科医とか、ライセンスを持っている人だったら可能なのかと言えば、おれはそうは思ってないので。ここでプロとアマの線引きはちょっと曖昧になるし、病気を持っているひとと病気じゃない人の線引きもけっこう曖昧になる。そういう意味でもけっこうおもしろい装置になるんじゃないかなと思って。

 

なので別に、自殺をなくしたい、とかがすべてではない。自殺、とか死、とかを、みんなどう思ってんのかっていうのをもういちど考え直すのはどうですかっていう、提案みたいな感じ。


スルーの構造


◆なるほど。

 

いまはたまたま縁があって自殺という話をテーマにやろうとしてるけど、同じ構造が、かなり他のジャンルにも当てはまると考えていて。「ホームレス」もそうだし「アート」もそうだし、「小説」とかもそうだけど、べつになかったらないで無視して生きていける人もいるけど、でも、実際ある。で、ちょっと関わったら、それはかなり……自分の存在の本質的なことに関わっていると分かるのに、そういう多くのことがスルーされている。それってどうなの? みたいな。たとえばツアーに参加したら、すごい観光名所とか案内してくれるんだけど、そこにはホームレスもいて、ツアーはそれをスルーして成り立ってる。で、あとからそのガイドに普段は何をやってるんですかって聞いたら、「弱者支援」をしています、とかいう。「どの口が言ってんだよ」と思って。さっきホームレスの人がいたときに「臭い」とか言ってたじゃねえかよ、って。でもたぶんその人のなかでは、ちゃんと、違和感なく日常は運行されてるっていうところが、ちょっとやばいなと。自分はそれは、あんまり、無理だなと思う。生理的に。

 

同じようなことはたぶん、いろいろあって。千五百円払って美術館行っても、出たらもう他のことしか考えてないとか、小説とかも通勤時間しか読まなくて、それが人生とはほぼなんの関係もないみたいな。なんか寂しいなあと思って。だから、その線引きを、もうちょっと解像度高くすることはできないのかなっていう。


ひとそれぞれの文体がある


◆声が届く範囲の差、規模とかは考えますか? それこそクラウドファンディングとか、SNSとか、発表の媒体によって、言葉の使い方とかをチューニングしたりする?

 

ひとりでやんないで複数でやっているのは、複数でやっていれば、たぶん同じことを語るのに二つ以上の方法を選べると思うからで、伝わりやすい言い方が得意な人もいるし、すごいもう、ひねくれまくっている人もいて、それは……どっちもあっていいんじゃないかなって。

 

◆はい、はい。

 

だからそう、SNSとかやっても、すごくわかりやすい言葉で書いたほうがシェアされる確率は高いと思うので、それを選択したほうがいいときもあるなとは、たしかに感じます。でもそうじゃないやり方も残したいなと思うし、個人的にはそっちのほうが向いていると思っているから。そっちを使うかなと。


メンタルヘルスケアのシステム


 ……でも、元も子もないこともいうと、たぶん数十年経てばできると思ってるから、こういうことは。だってもう、英語圏とかではできているし。昨日も発見しちゃった、めっちゃいいサイト。なんでこれが日本にないのって思うとけっこう悲しくなるけど。

 

◆えっ、それ、面白そうですね。

 

そう、だからそれもnoteで公開しようかなあと思って。英語圏にはこういうのがいっぱいあって、アイデアはあるから、それを日本用にカスタマイズしてローンチすればいいじゃん、とか思ってるし。

 

◆読んで紹介するのとか……。

 

いいかもしれないね。

 

いまはそういうメディカル系のテック(技術)が一番注目されてて、お金も集まってるし、普通に政府とかも、認証している。その、昨日見つけたようなのとほぼ似たようなサイトを、去年の十一月にイギリスの保健省が認定していて。イギリスの、国のサイトに行けばそこに誘導してくれるサービスもはじめたりしてる。アメリカも、Googleのアルファベットって企業がめちゃめちゃやばい。フリックの仕方で、そのひとのメンタルヘルスがわかる。

 

◆すごい、ちょっと怖いくらいですね。

 

ポップアップを出してきて――もし機能をonにしたらだけど――もしかして最近調子悪くないですかっていって、答えていくと、ほんとに重篤だと思われたら、専門家に繋いでくれるっていうのを、いま、ものすごいお金集めてやっていて。やばいよね。でも、Googleがやるってことはたぶんおれたちの使うスマホとかにも標準搭載されるから……なのでまあ、いまは過渡期なのかなと思ってる。

 

いまは、いま気づけている問題に関してアプローチしてるけど、たぶんまだ気づけていないいろんな……たとえば、わからないけど、なにかを差別する意識に対してアプローチするサービスとかもできるかもしれない。つまり、いままでほかの領域が担っていた、それこそ芸術とかが担っていたものとかも、他のジャンルが分担とかするのかなあとも、思ったりする。


どこかで暮らすということ


◆そうか……面白い。でも一方でそれは、生態反応をすごく高度に、管理することにもなりますよね。

 

うん。どうなんだろうね。コレクティブのうちのふたりが一年間中国に行っていて、カレー屋をやりながら移動しているんだけど、中国もめちゃめちゃ大きな政府感を出してきていて。WeChatとかも……WeChatっていうのは、国の認証がないと使えないSNSで、実質、生活インフラみたいな感じになっているんだけど、あれもすべて監視されてるし。信用スコアといって、借金をちゃんと返してるかとか、水道代を払っているかみたいなことがスコアになっていて、スコア次第で利子が免除されたり、使えるサービスが変わったり、あとは借りられるお金が変わったりするんだけど、もう、すべてがつながってる。で、外国人のおれとかが行くと、本当に制限された機能しか使えないから、わかりやすく手足が縛られてるというか、できないことがたくさんあって。まあ、はっきりいって、いやだけどね。すごい違和感を感じた。でも中国のなかには、そのほうが中国には合っているって言っている人も一定数いるみたいで。つまり、性善説じゃなくて、性悪説というか。ほっとくとだめなことするからはじめから規制しとけば悪いことは起きにくいんじゃないか、みたいな。で、それはある種、国家という単位が一番信用している思想とか、価値観を体現してるのかなと思って。日本はまたちょっとちがうのかなとは、まだ思ってるけど。

 

これからは、そういう環境をどんどん選んでいけるのかもしれない。旅行って単位はすごく身軽だけど、もうちょっと、一年に三箇所とかの拠点を同時に持つとか、交換するとかも可能なのかなと。だから、いちばん意味がわからない時代かなとは思ってるね。


なにかやろうよ


◆昨日の夜はもうちょっとわかりやすい感じでまとまるかなって考えながら寝たんですけど、ぜんぜんそんなことはなかったです。

 

ははは。え、いっしょになんかやろうよ、イベントとか。連載とか。

 

◆うん、メンタルヘルスケアのサイトを学ぶのは、面白いと思いました。

 

なんかね、ほぼ理想みたいなサイトを昨日見つけてしまって。それやるのは、めちゃくちゃ金かかるだろうけど……完全に考えられてて、もう至れり尽くせり。太郎くんにも教えるよ(7 Cups:https://www.7cups.com/)。まじやばいから。ちょっと感動してしまったもん。プロのカウンセラーを通さないで、トレーニングされた一般の人たちが、困ってる人と、まずは音声やチャットでやりとりをするっていうもので。

 

すごく行き届いているのは、十八歳以下の子供用のサイトがあって。子どもには子供用の繊細なケアが必要だから、べつの入り口を作っている。それがもうすでに大手サイトというか、規模もでかくなってるし、フォーブズに認定されているんだよね。世界を代表するなんとかサイトみたいな。そんなのだって、日本で知ってる人はほとんどいないだろうと思う。

 

◆おれもはじめて知りました。

 

けっこういろんな……たぶん、日本でももっとも知っているひとに何人か話を聞いたけど、ほんとにみんな知らなくて、お互い驚く。やばくない? って。だからそういう人とちゃんと話すと、みんな協力しますよって言ってくれるんだけど。おれとしてはそれがいまないってことがけっこう不思議だなと。たぶん他のジャンルでもけっこうたくさん、そういう状況があるんだろうなと思って。

 

◆領域と領域のあいだに通路がない?

 

たぶんそうだと思う。〈ルアンルパ〉に行っていちばんびっくりしたのは、〈ルアンルパ〉ってインドネシア……東南アジアではたぶんすごい有名だったけど、いままでも。でも話を聞いたら、十年以上前から、南半球全体のコレクティブのネットワークを作っていて、その言い出しっぺなんだよね。

 

◆すご。

 

やば、とおもって。日本て加盟してる? って訊いたら、いや日本はないよ、って言われたから、ちょっと入れてもらったんだよね。それで〈ルアンルパ〉もここに来る。南半球以外ではけっこう例外的に入れてもらってから、彼らから聞くことはまじでやばくて。「じゃあ今度東京来てもいい?」っていうから、「なにしに来るの」って訊いたら、「難民の人を助けるアプリを開発するから、東京に少しだけ滞在して、人と会いたい」っていわれて。彼はそれを「アートピース」って言ったからね。日本だったら多分、社会支援とか言うでしょう。ちがうから。「楽しいからやってる」って言ってる。そういう世界観なのに、日本だとそれはたぶんアートとは言われないし、資金調達もすごい難航するだろうし、だからどんどん無視される。それちょっとやばいだろっていう。

 

なんかね……いま、やくざとか不良とかもそうだけど、行き場所がないと地下にもぐるじゃない。今回自殺とメンタルヘルスケアで考えて、いくつかベンチマークがあって。ひとつはいのちの電話なんだけど、もうひとつが、Twitterで、自殺する人を募る、みたいな動き。TwitterのDMで、表には出ないけど、自殺を助けてくれる人とか、一緒に死んでくれる人募集、みたいな。で、話を聞いたら、知り合いがそういうのに関わってた、っていう人もいて。エリートというか、いま普通に社会的にちゃんとしてる人たちの、大学院時代の同級生とかが、そんな感じだった、とか。最近の話だけど。でもたぶん、そんなのたくさんあるなと思って。

 

◆うん。

 

いま引きこもりの子のスカイプの家庭教師をやっているんだけど、その子、十二歳だけどめちゃくちゃ面白くて。まずTwitterのアカウント九個持ってて、それを使い分けまくってて、おれと話しながら、スカイプやりながら、Twitterやりながら、勉強してる、みたいな(笑)。意味分かんない。でも、彼にとってはそれがリアルだし、これからはもしかしたら、ある種の人はそういう方向にどんどんいくのかなって。てなると……なんだろうな……人は一個の仮面というか、人格だけですべてを運営しているわけじゃないから、おれも元気なときはいいけど、そうじゃないときは精神的に苦しくなるときもあるし、そういうときに、ポンって後押しがあったらけっこう簡単に自殺しちゃうんじゃないかなって。

 

◆うん、うん。

 

で、そうじゃない選択肢をもっと、気軽に、アプリみたいな感じで知ることができれば、他の可能性もあるんじゃないかなって思ったのも、きっかけのひとつだった。


VS? Collective/Aki Iwaya プロフィール


〈VS?Collective〉(2017ー):

「オルタナティブ=二項対立に与しない選択肢」を生成するため、「社会と文化を繋ぐための戦術」を国内外から収集しつつネットワーキングしている。「弱さ」「人類学」に学び、培った知恵を多分野へ掛け合わせることで、「公共」「人間」を再定義する実践&共有&アーカイブを継続中。また、国内外のオルタナティブスペースや路上や公共空間や住宅等で、人の交流やゲリラ活動が発生する場の企画・記録撮影やレクチャー、コンサルティングも行う。

 

VS? CollectiveのFacebook note

contact: vsvscollective@gmail.com

 

Aki Iwaya

2013年から2016年にかけて『寺子屋』(不登校児等へのメンタルサポート、高卒認定資格授与&駆け込み寺シェルター)を運営。並行して、寺子屋やシェアハウスや大学等で対話志向の多分野混合イベントを多数開催。平成27・28年度 (公財)東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京調査員(美術・映像及び、芸術文化による社会支援助成分野)。映画『三里塚に生きる』『私たちに許された特別な時間の終わり』『サロメの娘』『Gis』等の制作・配給に参加/日英翻訳に「International Symposium for Media Art "Art & Technology" @ICC」(国際交流基金アジアセンター・アーツカウンシル東京共催)。『Writing without Teachers -second&new edition-』(Peter Elbow著)邦訳準備中。

ハフポスト連載:https://www.huffingtonpost.jp/author/aki-iwaya/



©Aki Iwaya, Taro Kawano