「そして、お腹がすいたかい、 と言って冷蔵庫代わりに窓の外に置いた袋から卵を取り出した。 そしてブリキ缶の中に詰めた砂にアルコールを染み込ませて、 火をつけると、オムレツは中がふんわりと、 とろけるようじゃなくちゃ、と言いながら焼き上げて、 古い皿に盛り付けた。 テーブル代わりにしている背もたれのとれた椅子の上にきちんと、 古びた、 でも洗濯をしてアイロンのかかったきれいな赤い布をかけ、 ちょっと固くなったパンに、 ニンニクの欠片を擦り込んで渡してくれた。どんなときでもね、 僕はこうやってきちんとテーブルをセットするんだよ。 それから食事をするようにしてきた。石工時代からの習慣だ。 貧乏人はそんなことを、とっても大切にするものなんだ。」
これは岸 真理子・モリア『クートラスの思い出』(リトルモア、 2011年)からの一節。240頁。おやすみなさい。