· 

Peter Dohertyとわたし 2022/01/21


晴れ。翻訳。ちょっと出勤退勤。

 

Peter DohertyがFrederic Loというミュージシャンとやっている新曲が出ていた。

「You Can't Keep It From Me Forever」という曲。

それを昼間のコインランドリーで聴いていたらうれしくて涙が込み上げてきた。

帰りながら白い雲が散っている青空を見たらまた泣きそうになった。

 

思い出していたのは彼のBabyshambles時代の「Fuck Forever」という曲で、これが入っている『Down In Albion』とそのあとの『The Blinding EP』で、ピーター・ドハーティは十代だったわたしの救い主になった。知った順番としては当時リリースされたばかりだった『The Blinding EP』(2006年)が先で、前年リリースの『Down In Albion』は後追い、The Libertines時代の音源はさらにそのあとに聴いた。

 

当時のわたしにはその出会いかたが似合っている気がした。前身のバンド、唯一無二のThe Libertinesがばらばらになったあとの、失意と自暴自棄と不屈の精神がいっしょくたになっているような初期のBabyshamblesの音と歌詞は、16歳で学校にも行かずに(通信制の高校に籍を置いていたが登校日はほとんどなかった)、中学を放校されてからずっと逸脱している…と感じていた自分の胸を打った。

 

特に「Fuck Forever」の歌詞はすごくて、「おれは死と栄光の違いもわからない、連中はお前に罰を受けさせようとする、お前に身をわきまえさせようとする、でもおれは賢いからおれの繋がりを断つ、おまえらくたばれ、これラジオじゃ流せないだろ」みたいな感じで、この音楽がなかったらわたしは自分の怒りを形あるものとして見ることはできなかっただろう。

 

Babyshamblesを聴くと当時のことが蘇ってくる。バスに乗って熊本の市街のタワーレコードに『The Blinding EP』を買いに行ったときとか、近所の床屋を出て(だれにも会いたくなかったのでそれすら冒険だった)「Fuck Foever」を聴いていたとき、夜道を歩いて「Beg, Steal or Borrow」を聴いていたときの光景が。すべてはクソである。自分はそのすべての一部である。でも死んでいない…。「Beg, Steal or Borrow」の「What a life on Mars?」というフレーズがデヴィッド・ボウイの引用だということも気付いていなかったが、そこにも「いったいなんだよこのわけわからん世界は。まだやっていかなきゃいけないのか?」という気持ちを乗せていた気がする。

 

それで、新曲の「You Can't Keep It From Me Forever」だ。うまく言えないがこの曲のたたずまい、声、メロディー、それに「きみはぼくがほしいものを知ってるんだろ、ずっとぼくに渡さないでいることなんてできないよ」という言葉の、健やかさのようなものに感動した。ずっとセレブリティとしてタブロイド紙の記者に追い回されて、薬物とアルコール依存で、更生施設を出たり入ったり、留置所を出たり入ったりしていて、その生活が音楽と歌詞にもあらわれているようだった(彼の何度目かの保釈日が自分の誕生日と重なっていたことだって覚えている)。でもいま、その感じがない気がする。自分のぐらついている部分と見分けがつかないような危うさと、それでもやめなかった音楽でもって自分を助けてくれたひとが、いま元気そうなおじさんでいてくれてうれしい。曲を聴かせてくれてうれしい。MVの、ヒゲをたくわえむっちりした健康そうな姿もうれしい。ちょっとニュースを見たら、2年半もドラッグを絶っているそうで、愛する人もいるそう。それがうれしい。曲のなかの手拍子がうれしい。