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海の仙人 2022/11/03


大事に読んでいる絲山秋子の小説群、今日は2004年作の『海の仙人』を買って読んだ。

パスタを茹でながらぼちぼち読み出したらやっぱり止まらなくなり、食事を終えてからなぜがキッチンに立ったまま最後まで読んだ。

 

「これはすごい、危険だ、ひとの胸につかえているものを射抜いてしまっているから、かんたんにはひとには勧められない、そのひとが読むタイミングを天に任せて待たねばならない…」と思った。ということは、自分がこれを読んだタイミングとともにこの小説を受け取ってしまったということだ。『離陸』は大好きだ、『不愉快な本の続編』の声は真のインスピレーションだった、『薄情』も『逃亡くそたわけ』も『まっとうな生活』も『沖で待つ』もとにかく楽しんだ、でもこれは別格だ…すごい小説をすごくするのに欠くことのできない傑作なタイミングを掴んでしまった。感想は言えない、絶句するしかない。

 

10月のおわりに故郷に滞在し、そこから少し離れたところにいる友人と会って言葉を交わし、戻ってから1日に友人と食事をし、来週のはずだったひとつの予定を1週間、はやめた。これらは、自分にとってはひとかたまりの出来事だ。翻訳の直しを続けている。そういう日々に楔を打つように、買ったその日に読み終えた『海の仙人』がいま、かたわらにある。

 

『海の仙人』とあわせて、前にも買ったのに読む前にひとに譲ってしまった絲山の『末裔』も買いなおした。

それからニコラス・ギリエンの『詩集:キューバの歌』といううつくしい本も買った。

翻訳は長谷川四郎、挿絵は富山妙子、装丁は丸元淑生、1964年刊行、国文社。