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2023 日記ダイジェスト 1/1〜1/7


2022/01/01

 

 ももひきをはいて寝て暑かったからか長い悪夢を見て、目覚めると強く拳を握っていた。昼前にちゃんと起きて換気をし、布団を干して味噌汁をつくった。FからLINEあり、昼ごろから近所の神社で初詣に行くから行かないか、とのこと。正午過ぎに行くと、3人がいる。

 良くしたいところや悪いところを撫でるとよい牛の置物があって、Fに「お前は心を撫でとけ」と言われる。

 帰った昼下がりにうたた寝していたらインターホンが鳴る。郵便局のひとがポストに入らなかった小包をもってきてくれたのだった。Jからのコーヒー豆だった。包みにはニンジン泥棒をしているウサギが描かれていた。ちょうど年末、コーヒーミルに不具合ができたから、直さなくては。22時過ぎ、近所のコンビニに散歩に行く。

 快晴で、マフラーのいらない暖かい日だった。

 

2023/01/02

 

 今年最初に読んだ小説は絲山秋子の「小松とうさちゃん」だった。卯年と「うさちゃん」の一致も、大晦日と年始のエピソードからはじまる時季の一致も偶然。絲山秋子はどんな深刻な展開を書くときにもユーモアを失うことがないと感じるし、作品によってシリアス・サイドとコミカル・サイドが分かれているとも思わない。それでも「コメディ」と言いたくなるたのしさが「小松とうさちゃん」にはあった。不安という、ひとりきりでイメージを育ててしまったために空虚な重荷と化したものに気づかせ、生きて運べる程度に荷を軽くしてくれる作家だ。これで10冊目。

 Mさんと電話。いま読んでいるというフーコーの『狂気の歴史』の話をしてくれた。15世紀、ひとびとは狂気におちいったものたちを「阿呆船」に容れて、海に送り出した……。それで2023年は『狂気の歴史』を読もうと思ったが、いまは同じくらいの値段のジョナス・メカスのニューヨーク日記の第2巻(完結)を買おうかと迷っている。

 今日は手紙を4通作り、うち2通を出した。HさんからLINEで新年の挨拶が届いた直前の連絡を見ると、去年の新年の挨拶だった。ARくんからオンラインの新年会の誘い。

 ゆでたまごを作った。湯煎とかジャム作りと似て、ことこと火を入れるのが落ち着いて好きだ。しらす丼と味噌汁を食べた。寝る前に電話でプレーするリモートチェスの最初の一手を指した。

 

2023/01/03

 

 夢。ルフィーノ・タマヨというものすごく小柄な曽祖母があらわれる。タマヨはメキシコからきた。ぼくはひ孫として、画家であるタマヨの画業についてインタビューするか、彼女の仕事についてのなにかをまとめる役をおおせつかっていた。

 本屋で店番をするとき、決まってルフィーノ・タマヨの画集の背表紙が目についていた。しかし画家本人の顔までは見たことがなかったので起きてすぐ検索すると、タマヨはメキシコ人男性だった。メキシコの画家というのはなんとなく知っていたが、名前の響きが日本人女性的だったので、曽祖母として登場したようだ。顔は似ても似つかなかった。

 こうして書いていたらWeyes Bloodの去年のアルバム『And in the Darkness, Hearts Aglow』の最後から二曲目にさしかかっている。

 昼にトーストとゆで卵とウインナーを食べて、つかいおわった風呂の水をはかしてシャワーを浴び、重曹とクエン酸を撒く。

 メカスの日記をAmazonで見ていたら、ほかにもいくつかメカスの本が出ているのに気づく。先月刊の『Requiem for a Manual Typewriter』は23ページの小品。だがとくに目をひいたのは昨年5月に刊行されていたPeter Delpeutの『Jonas Mekas, Shiver of Memory』。例のNYRBのマイケル・キャスパーの記事を読んでメカスの作品(あるいは当人)への信頼もしくは親愛の情をゆるがされたオランダの書き手であり映画作家のDelpeutが、そこからはじまる思索を書き留めたエッセイのようだ。あらすじを読んでも、メカスの「ファン」が避けて通れない問いについて向き合った本、という印象で、メカス本人の本におとらず見逃せない本かもしれない。いまでも、メカスの映画の上映があると知らせてくれる友人たちがいる。自分が20代のころにメカスに魅せられていて、それを表明し続けたからだったが、いまの距離感は変わっている。もうあの強い気持ちで映画や文章に触れることはない。といって、幻滅したのかと言われたら、そうとも言えない。Amazonをさまよっているときに思い出した、去年のリディア・ミレットの新作もやはり読むべきだろうかと思う。

 こうしてあたらしい書きかた(まずプライベートな場所で書く)で3日書いてみて、それまで即日ウェブ上にあげていた3年分の日記はそれでひとまとまりだという気がしてきた。2020年から2022年までの日記をまとめられるような大きなファイルを、三ヶ日が明けたら買いに行こうと思う。それまでやったことが過渡期だったと実感するのは悪い気分ではない。

 リモートチェスを最後までプレーする。終盤、ポーンを前進させることで、背後のビショップが相手のキングにいたる進路を得て(チェック)、ポーン自体は相手のクイーンを狙う、という形ができた。気持ちがいい。

 翻訳少し進める。

 

2023/01/04

 

 快晴。朝、郵便送る。エアメールはやや手間取る。

 朝は味噌汁と漬物とご飯。昼はゆで卵とネギを加えた袋ラーメン。

「悪魔の毒々モンスター」(1984)をはじめて見ていたが、残り20分弱のところで限界が来てやめた。刺激がない。

 ミレットの『Dinosaurs』を買う。

 

2023/01/05

 

 昨夜は「死霊館」(ジェームズ・ワン監督、2013年アメリカ)を最後まで見て寝た。これはよかった。怖くて身をそらしながら見たので、とくに前半のミニマルで間接的な恐怖演出を味わうためにまた見てもいいかもしれない。目隠し隠れんぼの手拍子はたしかによかった(評判を聞いていた)。後半のロレイン&エド・ウォーレン夫妻率いる除霊チームの、プロフェッショナルな立ち振舞いのなかにも親愛と信頼がある感じがまたいい、助手のドルーと、地元の警察官・ブラッド巡査とのチームワークも。夫妻たちが使う道具は科学的発明の成果であり、魔術的な世界と対置されていて、そこで世界観がせめぎ合っているように感じられる。こういうのに弱いのは、合理的な自分とマジカルなものの存在を感じている自分の両方をそこに見るからだ。また、こういう話は「霊的なものに専門的に関わる人たちが「理性的」な周囲の人々に信頼されるのか?」という、疑念とそこからの(恐怖体験をつうじた)信頼回復もドラマのおおきな一部になりがちな気がするが、この映画ではそこに時間は割かれず、ときおり動揺を見せながらもすべてのキャラクターたちがふたりをとことん信頼するところからストーリーが展開していく。なんというか、団体戦の映画なのだ。団体戦といえば、終盤は死霊に部屋中を引きずられる人々にチームで飛びついていく、それこそラグビーみたいな感じがあった。そこも好きだった。5人姉妹もとても魅力的。

 2時ごろに寝た。

 その夜の夢はぜんたいにプレッシャーを感じていることを伝えるもので、驚きはない。リラックスしよう。

 起きてみると空腹ではなかったのでコーヒー豆をミルで挽いた。ネジが緩んで挽く部分が機能しなくなっていたミルだが、昨日いちどすべて分解して除菌ウェットティッシュで拭いてネジもしっかり締め直したので、よく挽けた。挽いた豆の目の細かさに驚く。いつもより濃く出た気もする。やはりたまには掃除しなければ。快晴。

 LINEでTとゆるいやりとりが続いている。Tはここ3年ほど「体調がよくなったら会おう」と言い続けている。22時から電話ですこし話すことになった。こうしたやりとりをしながら翻訳を進める。進みは遅い。

 午後にキングジムの8センチのファイルとカーボン紙を最寄駅の文房具屋で買う。ファイルに2020年からの3年分の日記をまとめる。圧巻。写真を撮ってInstagramにあげる―「今年から日記のスタイルを変えたら、それまでホームページに書いてきた2020年から2022年の日記(とその補遺)はひとつのかたまりになっていた。キングジムの8cmのファイルがちょうどいい容量に。/2020年1月のあたまに書きだしたので、最初のパンデミックの日々も書き留められることになった。わけのわからない3年間でした。わからないまま4年目がきた。」

 翻訳進める。

 6時にFたちと夕食を食べるために自転車で向かう途中、はじめて職務質問を受けた。

 Tにすこし遅れて電話。最後に会ったときの印象よりはるかに調子がよさそうでうれしくなった。去年の3月に会ったきりで、つもる話をした。終盤の「食いもんが美味くなった」という彼の言葉に、思わず「よかった」と喜びを爆発させてしまった。その言葉を聞いて思い出したのだが、彼の体調の悪さと食への無関心は、自分のなかで近い場所にあったのだった。自分についても世界についても気づくことばかりだ、というと、おれもそうなんだ、歳をとって単調になって時の流れが速くなったなんてまだとても言えない、と彼は言い、でも同世代でそんなこと言っている人は初めてだよと言った。遅い成長なのかやまない変化と言っていいのかわからないけれど。

 あわただしくて連絡できていなかったDさんにLINEの返信。軽い相談があるのでまた明日連絡する、とのこと。

 0時31分。

 

2023/01/06

 

 ゴミ出し。

 Neil Young & Crazy Horseのアルバム『World Record』を聴く。3曲目( ‘I Walk with You’ )がハイライト。

 翻訳。

 スーパに昼食を買いに行く。サンドイッチ。中学校の中庭の茂みにいた猫と目が合う。

 翻訳。

 Oさんから電話。職質の話をしたら、Oさんは一度だけ、だれもいない道で原付を法定速度の30キロで走っていたら遅すぎて逆に怪しまれ、「免許持ってる?」と訊かれたことがあるという。

 翻訳。

 契約書と2009年ごろから2019までの文章をそれぞれファイリングした。アーカイブがたのしい。明細もきちんと参照しやすいかたちにまとめていこう。

 アトロクを聴いていたら今日のlive & directはDENIMSという大阪府堺で結成されたというバンドだった。ホーンセクションがよかった。音源(「makuake」という2019年のアルバム)を聴いてみると、なんとなくなつかしい。The Jon Spencer Blues ExplosionとかBig StridesとかG. Love & The Special SauceとかCAKEとか(そうだ、CAKEの感じだ!)……きりがないが、そういう90年代のバンドを思い出したからだろう(Big Stridesは2000年代か)。はっきりした年齢はわからないけれどバンドメンバーはいま30代はじめくらいのようで、一緒だ。この世代は90年前後の生まれだから、14歳前後になっていろいろな音楽を聴きはじめたような人は、自分がひと桁の年だったときである90年代、とくに前半の音楽を後追いで知る。まだTSUTAYAでCDが借りられていたときだ。それがアーカイブだった。

 当時、「長いバンド名のバンドを聴いているのがかっこいいのではないか」と思って、中学生の太郎はTSUTAYAで「The Jon Spencer Blues Explosion」というインデックスをみつけてCDを借りたけれど(「Orange」だった)、そのときはまったくよさがわからなかった。

 

2023/01/07

 

 初稽古。道場の5階の窓の外に鳩がすわっている。稽古を終えて着替えに5階に行くと、まだいた。

「霧の中のハリネズミ」再見。