二月：真殿琴子
2023/02/02｜昼ごろ起床。夕方ハンバーガーを食べる。Ｙはわたしのカルピスを飲んで「夏の味がする」と言った。帰り道、携帯がないことに気がつく。携帯を失くす気分を初めて味わう。夜はいつも通り授業。Ｙは明日帰る。最後の夜だからと何となくバーに来てみた。そしてＹの隣で日記を書き始めることにした。時が過ぎるのはあっという間だと感じる。
2023/02/03｜節分。二十四節気による区分だと明日が立春で、新年的な扱いになっているそうだ。だから今日は年末みたいなものだ。暦のバリエーションが多いことに、大人になってから「ありがたい」と思うようになった。全身の細胞が生まれ変わるような錯覚。
Ｙを送り出す前に一緒に嵐山へ行った。行きの電車の中で「おかきの串が食べたいね」と話してたけど、結局食べれなかった。
観光客がたくさんいた。わたしも京都でずっと観光客みたいな気持ちで生きている。というか生まれた時からこの世界における観光客なのかもしれない。竹林でそれらしい記念写真でも撮ればよかった。
2023/02/04｜だらだら過ごしてしまった。
今朝は長い夢の中で、平安時代の京都っぽい何かを見た。一条天皇の周りの女性たちの物語と関連した内容だったと思うが思い出せない。幽霊がたくさん出てきたことと、生首がそこらじゅうに散乱していたのは覚えている。明らかに嵐山散策の影響だった。
午後はトルコのルポルタージュなどを視聴。「無神論協会」の存在を知る。向こうのアテイストと言うのは日本の無宗教とは何もかもが違う。肯定するにも否定するにも、きちんと根拠を求めて自分の立場や考えをあらわにする人たち。若い人でもそういう人がたくさんいることに純粋に驚く。とはいえ自分はそうなりたいともなりたくないとも思えない。ただ、他人に、何を信じているのか？ と迫られるのは嫌だ。どんな音楽聴くの？ と同じくらい嫌な質問だと思う。秘密は秘密だからだ。
2023/02/07｜日記を書く手が止まってしまっていた。
トルコで大きな地震があった。動揺している。研究をやめてしまった先輩にも状況を聞いてみる。お互い取り乱しているだけなのだが、とにかくそのことを共有できただけでも何となく気休めにはなった。でもやっぱり状況はかなりひどい。何もできない。
2023/02/08｜東より訪問者きたる。ハンマーを持って行こうか迷ってやめる。
2023/02/09｜近所の大学の卒業展示へ。屋上に喫煙所がある校舎が最高だった。
2023/02/10｜軽作業の傍ら、横でゲームしている人の生実況をみる。本格的にゲームやりたい。
2023/02/11｜アンカラに留学していたときによく食べたクムピルが京都で食べれるという情報を事前に仕入れていたので実際に行ってみた。
トルコから帰ってきてからもう随分経つ。
2023/02/12｜結局ニンテンドーDSを買った。何軒も中古ゲーム機の取扱いがある店を回ってから、金閣寺の近くにあるお店でやっと見つけた。店員さんが神々しく見えた。DSと一緒にポケモンのソフト（リーフグリーン）を買った。実際、目の前でやられたらみんなも欲しくなると思う。絶対そう。
2023/02/13｜ゲーム、ゲーム、ゲームのち徘徊。
2023/02/18｜実は研究会の予定が入っていたが寝坊したので欠席。大冒険してしまう。明日こそちゃんとしよう。
2023/02/19｜早朝から研究会。聴衆として参加するだけだったが緊張した。
終わった後、また冒険してしまった。なんとか捕まえたフリーザーに「あいす」、メタモンには「とろろ」という名前をそれぞれつけた。ちなみにカビゴンには「おやすみ」という名前をつけた。
夜はお坊さんたちと食事。文字通り「笑い転げる」お坊さんの姿が印象的だった。「寂滅為楽」という言葉を教えてもらった。わたしもそうだけど、もはや人類共通のテーマやん、と思った。仏教おもしろい。ポケモンばっかりやってしまいます、と白状したわたしにもお坊さんは優しかった。わたしも何かの役に立てるように頑張りたい。
2023/02/20｜魚座新月。このタイミングでノートの最後のページまで書き切った。時節が変わり、何かのフェーズが終着し、また始まったと感じた。ミスドでげろあまのドーナツを二つも食べて、自分が研究を通して何を明らかにしたいのか今一度整理したりした。
これまではあまり感じることがなかったが、自分の背中を押してくれるような存在が何人もいるように感じられた。やるしかない。
2023/02/22｜新しいノートを使い始めた。インスタで見つけた投稿、こないだの地震があった地域で瓦礫の中から見つかったノートに書かれた文章。それをそのまま1ページ目にコピーして書いた。Merhaba Sevgili Kendim（こんにちは、親愛なる私自身）から始まる、未来への決意と祈り。
夜はＹに電話。長電話になってしまった。
2023/02/23｜昼頃起床。夜は授業。終わった後、事務局の方と来年度の授業について相談。一瞬で春になってしまいそう。
2023/02/26｜大学時代の恩師から突然の電話。日本に帰りたくないよお、と率直な叫びに爆笑。その後、10年前にアンカラで一緒だった人から連絡がきた。図らずも懐古、いと時（さだ）過ぎ。
2023/02/27｜「何もわからない」という状態に立ち戻る。こういう日もあるのだ。時々こうなるのは双子座だから、と思い過ごすようにしてる。運命とは時に残酷だが、言い訳にもなる。
書類仕事を済ませる。
真殿琴子
大学院生。宗教学。
